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基底細胞癌/有棘細胞癌のMohs(モーズ)手術

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Mohs手術に関する受診には予約が必要になります。健康保険適応外の治療です。
Mohs(モーズ)手術の説明を行う上で、手術画像などを掲載しておりますので予めご了承ください。また、閲覧には十分にご注意ください。※症例写真・イラストの無断転載、無断使用はご遠慮いただいております。
Mohs手術とは

 Mohs micrographic surgeryともいいます。すべての切除面を顕微鏡で即座に評価し、厳密に皮膚癌を切除する手術方法です。代表切片のみを評価する従来法と違いすべての切除面を評価するため、皮膚癌の治療法のなかでもっとも治癒率が高く、正常皮膚を最大限に残すことができます。この手術の原理は1930年代にFrederic Mohs医師によって初めて提唱されました。Mohs 手術では、側方断端および深部断端の完全な評価を行います(CCPDMA; complete circumferential peripheral and deep margin assessment)。Mohs(モーズ)手術による基底細胞癌の長期成績は99%と、従来法にくらべて術後成績が良好です (下記の表参照)。

Mohs(モーズ)手術と従来法の違い

 日本で広く行われている従来法では、皮膚癌(基底細胞癌や有棘細胞癌)から3-10mm離して切除することが多いです。この切除で離す3-10mmの範囲のほとんどは切除する必要のない正常皮膚です(図1の赤い線が5mm離したデザインになります)。図2は、5mm離したものを切除後に縫い閉じられるように、紡錘形の切除を行ったものです。茶色の腫瘍は皮膚表面からは十分取り切れているようにみえても、この図のように皮下では取り残しがある可能性があります。切除した皮膚癌は、一旦病理検査のために外部の検査室に送られます。検査室では、切除したものを3mm間隔などに分断し(図3)、切断面をそこで7-10日かけて皮膚癌の残存を調べるため、その間は手術してできたキズのところに癌細胞が残っているかどうかは分かりません。またMohs(モーズ)手術と違い、2-3mm間隔の代表切片のみの検査であるため、切除面すべてを確認するわけではありません(図3)。この図では左から2枚目と3枚面の代表切片の間で、腫瘍が露出しているので癌が取り切れていない可能性がありますが、癌は取り切れていると、実際と異なった検査結果がでます。このため長期成績(5年後や10年後の再発率)はMohs(モーズ)手術よりも劣ります。検査の結果として残った皮膚癌の細胞があることが判明した場合、さらに追加の切除を1回目の切除縁から正常皮膚を含む3-10mm離して行うことになり、この場合も2回目の手術からさらに7-10日間かけて病理検査を行います。最終的にすべて切除されていることが確認されるまで、キズを閉鎖してしまうと癌細胞が残ってしまうリスクがあります。

 

 Mohs手術では皮膚表面の腫瘍から1-2mm離したデザインで切除を行うため従来法とことなり正常皮膚をほとんど残します(図4)。図5のように、切除した腫瘍の4方向に切れ込みが入れてあり、何時方向に腫瘍の取り残しがあるのかが分かるようになっています。切除した腫瘍の切断面を平面上にひろげ、これによってすべての切断面を同一平面として切り取って切片を作成します(図6)。この切片をスライドグラスに載せ、染色したあと腫瘍の取り残しがないかを評価します(図7)。この図の例では4時方向に茶色の残存腫瘍として図示されています。一連の病理検査は切除直後に行い検査結果は数時間以内(通常1-2時間)で判明します。また、従来法と異なりすべての切除面を検査し、皮膚癌が残っているかどうか、また残っている場合にはどの方向にあるのかがその場で判明します。4方向に入れた切れ込みに加え切除した検体には方向を示す色を付けて処理するため、残存腫瘍細胞をマッピングすることが可能になります。もし腫瘍が残っていないことが確認できれば、切除後の皮膚欠損部の再建を直ちに行います。また、腫瘍の残存がある場合にはその方向のみの追加切除を行い、再度病理検査を行い、腫瘍の残存がなくなるまで追加切除を繰り返し、最終的に腫瘍が残っていないことが確認できるまで行います。これにより、従来法と異なり正常皮膚を多く残すことができます。このようにMohs手術では完全切除率が従来法に比較して高く、小さなキズで済むため、整容的にもすぐれた結果となります。

 

近年の皮膚癌(基底細胞癌と有棘細胞癌)の発生状況とMohs手術の実施状況

アメリカでは近年皮膚癌患者は増加傾向にあり、2006年時点で約350万人余りの悪性黒色腫を除いた皮膚癌が新規に発症しています。上述の利点のため、このうち約4分の1がMohs手術によって治療されてきています1。日本でも皮膚癌の増加傾向を認めており、皮膚癌全体の約4分の1が基底細胞癌で最も多く、毎年6,000人程度が発症していると推定されています。2番目に多い有棘細胞癌はその半分ぐらいで毎年3,000人程度と推定されています2。日本皮膚科学会の皮膚悪性腫瘍ガイドラインには、Mohs手術が有効であるとされているものの、当院を除いて2021年2月時点でMohs手術実施施設が国内に存在せず、ほとんどが従来法で治療が行われています3。また保険適応は認められていません。

 

Mohs手術の実際の手順

Mohs手術はほとんどの場合が日帰り手術で、局所麻酔下に行います。

  1. 腫瘍から1-2mm離した部位を切除するためのデザインを行います(図4)。このとき4方向に切れ込みを入れることで方向をはっきりさせます。
  2. デザインした部位で腫瘍を切除し、止血後に生食ガーゼを充てます。患者様は検査の間通常1-2時間程度休憩していただきます。食事を摂っていただくこともできます。切除した腫瘍にはさらに染色液で印をつけ、目印にナイロン糸を縫いつけた後に切断面を配置・凍結させます(図8・9)。

     

  3. 検体をクライオスタット(-30℃に冷却しながら検体を薄く切る装置)を用いて薄切します(動画1/クライオスタット薄切作成)。
    薄切した検体をスライドグラスに載せ、染色機で染色します(動画2/自動染色機・図10)。
  4. 薄切された検体を顕微鏡で観察し、腫瘍が残存していないか、残存している場合にはどの方向に残っているのかを確認します(残存腫瘍のマッピング)(図11-15)。この例では3時方向と10時方向に腫瘍が残っています。

    図11 顕微鏡下でのスライドの評価

  5. 病理検査の結果を患者様にお伝えします。腫瘍が残っている場合にはその部位のみの追加切除を行い、1-4の操作を繰り返します。この例では3時方向と10時方向について、追加の切除を行っています(図16)。1回目と同様に、顕微鏡でスライドグラスの評価を行います(図17)。この例では2回目の追加切除検体に残存腫瘍はありませんでした(図18・19)。残存腫瘍がすべてなくまるまでの繰り返し操作の平均回数は2-3回です。
  6. 最終的に腫瘍が残っていないことが確認できれば皮膚欠損部の再建を行います。単純縫縮(欠損部をそのまま縫い閉じる)が可能であればそうします(図20-22)。Mohs手術では後述するように顔面・頭頚部・下腿前面・陰部・手足・足関節・乳輪・乳頭部といった、皮膚に余裕のない部位での手術適応が高いため、欠損部の大きさによっては皮弁形成術や植皮術が必要な場合が多いです。
従来法による切除とMohs法による切除による再建の比較

同一部位について従来法とMohs手術での比較を行いました。

  • Mohs法

Mohs法の例として、基底細胞癌の浸潤型という、基底細胞癌の中では再発が高い種類の方を紹介します。図23では左鼻の先に赤い部分がありますが、事前の生検(一部だけ取って調べる検査)で癌であることが分かっています。顕微鏡でこのときの標本をみると、癌細胞が真皮にとげのようにとがった形で浸潤し、周りの線維化が強く、基底細胞癌の中でも再発しやすいタイプである浸潤型であることがわかります(図24)。

従来法で切除する場合には最低5mmは離して切除しましょうと勧められるので、鼻の皮膚が大きくなくなってしまいます。そこでMohs法のデザインを図25のように1.5mm離した切除ラインと、腫瘍の方向が分かるように入れる4か所の切れ込みを入れて行い、局所麻酔で切除します。切除した標本には切れ込み以外にも12時方向にナイロン糸がかけられ、腫瘍の取り残しがあってもどの方向のものなのかが分かるようにしています(図26)。

幸いこの方はこの1回の切除で癌細胞がすべて取り切れていることが判明したので、切除から2時間後に皮膚欠損部の再建を行いました。Mohs手術による切除後の皮膚欠損は小さいので、図27のようにとなりあう皮膚を用いてLimberg flapという局所皮弁をデザインします。このときの手術も局所麻酔を用いて行います。皮弁を挙上し、皮膚欠損部を修復するように覆って縫合します(図28-30)。術後7か月経過した段階ではキズアトが目立たず、再建された鼻であることが分からなくなっています(図31)。このように、Mohs法ではほとんどの場合に1日で手術が完結し、局所麻酔のみを使って行えます。また正常皮膚をほとんど切除しないため、皮膚癌を切除したあとの再建がきれいに行えます。

  • 従来法

ここでお示しする従来法の例は、鼻に生じた基底細胞癌の再発の方です(図32)。皮膚がなくなり赤いびらんに見える部分が癌です。再発するリスクが高いため1cm離して切除するデザインを行っています(図33)。

この切除によって右側の鼻は軟骨を含めて欠損してしまうため、全身麻酔下に額や右頬部の皮膚、さらには右耳の軟骨を用いた再建を行いました(図34-36)。額の皮弁は十分に時間がたつと切り離しても鼻から血管がつながって皮膚が生着するので、1回目の手術から1か月後に先端を残して切断し、額に戻します(図37-39)。

この方の場合は1か月以上入院して全身麻酔の手術を2回行い、癌を取り除き鼻の再建をすることができました(図40)。それでもMohs手術よりも再発率は高いです。特にこの方のように再発した基底細胞癌では、再発率が高くなるため数年の間は注意が必要です。

 

Mohs手術適応の高い状態(基底細胞癌・有棘細胞癌)の例

部位 : 顔面・頭頚部・下腿前面・陰部・手足・足関節・乳輪・乳頭部

組織型 : 基底細胞癌(Morpheaform/fibrosing/sclerosing/infiltrating/perineural/metatypical/keratotic/micronodular)、有棘細胞癌(Sclerosing/basosquamous/small cell/ poorly or undifferentiated/perineural/perivascular/ spindle cell/ pagetoid/infiltrating/keratoacanthoma type/single cell/clear cell/lymphoepithelial/sarcomatoid/Breslow depth 2mm以上/Clark lever IV以上)

大きさ: 5mmを超えるもの

 

手術成績

従来法に比較してMohs手術での基底細胞癌および有棘細胞癌の再発は少なく、組織型や経過観察期間によって1-5%と報告されています。ハイリスクタイプの原発性基底細胞癌の術後10年での成績では、再発率がMohs手術の場合で4.4%、従来法で12.2%とする報告があります4

原発性基底細胞癌(すべての組織型)と有極細胞癌(すべての組織型)の治療後5年経過時の治癒率
治療方法 基底細胞癌治癒率(%) 有極細胞癌治癒率(%)
外科切除 90 92

電気凝固・掻破

92

96
放射線治療 91 90
凍結療法 92 適応無し
Mohs以外の全治療法の平均 91 92
Mohs手術 99 97
参考文献
  1. Ad Hoc Task Force1 Connolly SM, Baker DR. AAD/ACMS/ASDSA/ASMS 2012 appropriate use criteria for Mohs micrographic surgery. J Am Acad Dermatol. 2012; 67(4):531-50. 
  2. 皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版 有棘細胞癌診療ガイドライン 日皮会誌: 130(12), 2501-33, 2020.
  3. 2012年12月6日放送 藤澤康弘 マルホ皮膚科セミナー「第111回日本皮膚科学会総会⑤ 教育講演20-1 皮膚腫瘍の最新疫学データ」2012年12月6日放送 ラジオNIKKEI
  4. Van Loo, Mosterd K, Krekels GA. Surgical excision versus Mohs' micrographic surgery for basal cell carcinoma of the face. Eur J Cancer. 2014; 50(17):3011-20.

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